はいどうも、こんにちは!秘密基地ひろしです。
今回は先日納車されたホンダ S660の静的評価を紹介します。
エスロクのレビュー記事なんてのは既にたくさん出回っており、今から上げても10週レースで20周回遅れって感じです。
ですからここは幸いというとおかしいですがカーメーカーで32年間、開発を経験してきた立場から、一風変わったレビューをお届けしたいと思います。
カーメーカーの新型車の開発期間って概ね3年ぐらいです。開発が始まって1年ぐらい経つと試作車が登場してきます。そこからは実車を使った品質確認会が生産立上げまで結構な頻度で開かれます。
そのときは他社のライバル車を横に並べて比較しながら品質評価をしていきます。評価には静的評価と実際にテストコースを走らせる動的評価があり、今回はその静的評価をやっていきます。
最初にコンセプトやパッケージの比較も行いますが、エスロクの場合、孤高の存在といいましょうか、ライバルになる車が居ないので、そこは取り沙汰しないことにします。
その次に注視するのが建付けです。車も住宅なんかも出来ちゃうと中がどうなっているか分からないです。でも建付けを観察することでそのモノの良し悪しやメーカーの実力が測れます。
ところで最初にお断りですが、今回はエスロクの粗探しをしていきますが、これはエスロクと長く付き合うための重要なステップで、エスロクに対するおのろけ、または愛だとご理解下さい。
いきなり脱線です
いきなり脱線しますが、エスロクが来てまだ1週間なので乗り降りの仕方が固まりません。
今はどうやっているかというと、出来るだけドアを全開にして最初に左足を入れて体を中に入れますが、最後に右足を車内に入れるときに足が攣りそうになります。
右足を入れるときに体を車の左側に倒し込むとか色々やってきましたが、分かってきたのは右足をガニ股で入れると多少良いみたいです。兎に角、右足をシッカリ引き上げないとドアトリムに足が当たって傷だらけになります。
なのでドアトリムとサイドシルカバーのビニールシートを剥がしたいものの、乗り降りのやり方が固まるまで、外せないでいます。
降り方は大分と分かってきまして、右足をガニ股で外に出して、右手をリアクォーターに突いて体を支えて出てくるというやり方です。
ガニ股で右足出す 右手を突く
ここはもう少し時間を掛けて研究します。(そんな大そうな)
外装チェーック!
お待たせしました本題です。建付けを見ていきましょう。
まず最初に「建付けって何ですか~?」って話ですが、簡単にいうと例えばドアの建付けです。
ドアとフェンダーの建付けを例にとると、まず分割があります。これはドアとフェンダーの隙間です。次に面差ですが、これはドアとフェンダーの車体横方向の面の出入りです。
更にこの分割、面差の通り差。これは上から下までの隙間、面差が均一になっているかどうか。そして分割、面差の左右差は反対側との差異をいいます。
分割の業界標準は大体4mmぐらいです。建付けの王様は実はフォルクスワーゲン、アウディで、彼らはときに3mmぐらいの分割で攻めてくることがあります。
加えて彼らはドアの端末とかキャラクターラインを小さなRで仕立てます。こうなると本当にもう折り鶴みたいなバッキバキの見栄えが具現化出来ます。おろしたてのアイロンプレスされたワイシャツみたいです。
エスロクのドア回りは4mmぐらいですので、まずは順当です。
エスロクの建付けを全部見てみましたが凄くキレイに出来ていて優秀です。
特にドア後端とリアクォーターの分割は4mmジャストぐらいなのですごくキレイに見えます。
ところでこうした分割、面差は鋼尺とテーパーゲージで測ります。カーメーカーの技術者は常に作業服のポケットに差していて、事ある毎に測りまくります。
あとはチッピングの問題があります。
チッピングとは前の車や、自分のタイヤが巻き上げた小石や砂利でボディがダメージを受けることです。
対策の常套手段としては、例えばドア後端はリアクォーターの角を守るために0~0.5mm浮き方向にします。
ドア前端の場合は、フェンダーを0~0.5mmぐらい外に出して、ドアの先端をチッピングから守ります。
決してマイナス面差にはしないです。
フロント回りも建付けは優秀で、ホンダは結構テクニシャンです。
私が個人的に出目金、奥目の八ちゃんと呼んでいる手法があります。
フードとヘッドランプの面差を面一にするのは難しいです。何故ならフードの取付け基準はヒンジでヘッドランプよりかなり後方にありますし、乗っかってる板金が違うので寸法が安定しないです。
そこで登場するのが出目金で、わざとヘッドランプがフードから出る設定にしておけば厳しい面差確保はごまかせますので、分割だけを成立させればOKです。
出目金 奥目
その下のヘッドランプとバンパーの面合わせも然りで難しいですから、奥目の八ちゃん=ヘッドランプの面をフロントバンパーより後方にします。こうすれば同じく面差はバレないので、分割維持だけに専心出来ます。
さらにはヘッドランプの横も面一にはせず、あまり無理をしないでキレイに見せています。デザインと設計の共同作業の為せる技です。
世の中にはフード、ヘッドランプ、フロントバンパーを面一で見せてる車もあります。これは根性論ではなくちゃんとした技術的な裏付けがあります(但しコストはちょっと掛かります)
フェンダーとバンパーの分割、面差も均等でキレイです。分割は大体1mmぐらいです。ゼロにすればもっと美しいですが、塗装が剝がれてしまいますので隙間が必要です。
それからフェンダーに樹脂のエアダクトが嵌っていますが、外周に隙が無くお見事です。
一方、リアフードの分割は少し大きめでサイドが5mm、後端は6mmとなっています。
6mmとなると中が見えてきますので、見栄えは良くないです。エスロクのリアフードは後ろに開きますのでクリアランス上、仕方が無いのかもしれません。
意欲的だと思うのはリアパネルとガーニッシュ、リアコンビランプの面差を面一にしています。これらの部品が同じ板金部品に乗っているので出来ることではあります。
リアコンビランプもリアクォーターと面一で通していて美しいです。一方、リアコンビの下側はちゃっかりと奥目の八ちゃんにしていて、無理をしない姿勢が評価出来ます。
こういうのは工業デザインのテクニックで、一般の人にはどうでもいいことなんですけどね。
リアクォーターとリアバンパーの分割も1mmで通していて美しいです。
ただアーチ部分の面差はリアバンパーを意図的に1mmぐらい内側に入れています。
これは恐らくチッピング対策とユーザーが車を擦ったときにリアバンパーが外れないようにする配慮かと思います。
それからリアバンパーのアーチの途中で黒い樹脂板がニョーンって出てますがこれはホイールガード要件対策だと思います。
これは道路運送車両法の保安基準で決められていて、ホイール中心から前側30度、後側50度はホイールが車体横方向にはみ出してはいけません。
上から見るとこの部分はリアバンパーのホイールアーチが内側に入り込んでいく途中でホイールがはみ出しそうなので、ホンダとしてはわざとリアマッドガードの端末を伸ばしてカバーしています。
ぶちゃいくですが、そこまでやってカッコよくリアバンパーを造形してくれたことに感謝です。
次にフューエルリッドですが、造形には見せ方テクニックがあります。
真正直にフューエルリッドをリアクォーターに対して面一で造形すると、フューエルリッドが浮いて見えます。
そこで通常、フューエルリッドは0.5mぐらい面を入れ込みます。
エスロクの場合、フューエルリッドの前側はセオリー通り、少し面を入れ込んでいます。一方後ろ側は少し飛び出しているので、ひょっとしたらチッピング対策でホンダが敢えて出してるのかもしれません。
悪いところも指摘です。
ソフトトップの前縁で少し浮いているところがあります。ここから水が入ってしまいますが、ここで防水している訳ではないので、まあ大丈夫でしょう。
あとAピラーの付け根外側の三角カバーにガタツキがあります。
カーメーカーの開発中の品質確認会だとホワイトボードに不具合を書き出しますので、「Aピラーカバーアウター、がたがた」って書かれちゃって、外装設計の課長は呼び出しを食らいます。
エスロクの出来はすごく良いのでちょっとこのガタツキは意外ですね。
内装も見ます
次に内装です。建付けでは無いですが、このエスロク、ブレーキペダルがドライバーの中心に配置されていて素晴らしいです。
通常の軽自動車だとフロントタイヤのホイールハウスが車内に出っ張るので、アクセルペダルが左に寄りますのでブレーキペダルも少し左側に寄り、ちょっと窮屈になります。
エスロクの場合、フロントタイヤハウスの飛び出しが殆ど無いので、アクセルペダルがシッカリと右側に付いているのでABCペダルの配置が理想的です。
ステアリングホイールもドライバーに対して垂直では無いですが、1、2度程度傾いているだけなので許容レベルで気にならないです。これはレイアウトや正面衝突対策の関係上ステアリングシャフトが車両の進行方向に対して平行には出来ないので、しようが無くはあります。
内装も全般的に軽自動車にしては品質がかなり高いです。そもそも軽自動車は内装のデザインが酷いモノが多いですから。
とはいうもの褒めてばかりいてもしようが無いので、指摘していきますと、インパネとAピラートリムインナーの合わせはわざとインパネの面を上げて段違いにして面差のズレがバレないようにしてあります。
見栄えは良くないですが、無理をして設計上で面一にして実物がズレてしまうのであれば、これも賢いやり方です。
インパネとドアトリムも然りで、一見デザイン上の繋がりを見せていますが面を連続させてはおらず、分割さえキープ出来ればキレイに見えるようにしてあるので、中々上手い造形です。
助手席側も少し意匠が違いますが、面合わせを作らずに構成しています。
インパネのメーター左下に分割ラインがS字クランクになっているところがありミスデザインですね。恐らく樹脂パーツの合わせ構造の関係上こうなってしまったと思います。
惜しむらくはシフトレバーの縁カバーがインパネ側との繋がり部で0.5mmほどズレて段差が出ています。たかだか0.5mmですがよく見えるところなので目立ちます。
さらにシフトブーツの左横に謎の細長い樹脂の面があり、造形上どこにどうつなげたいのか意図が分かりません。
タッピングスクリュウの頭が見えるところが3か所。センターコンソール、ドアのプルハンドルとリモートハンドルのところです。
3百万円以上の車ならアウトですが、軽自動車ですし、エスロクはそもそもコストが大変厳しい車なので、ここは止む無しですかね。
センターコンソール プルハンドル リモート
気になる方は樹脂板を貼る等のモディファイが楽しめますよ。
実は私、何気に一番気入っているのがシート後方の隔壁です。シートのバックレストは人型をしていますが、その形の通り、まるでツタンカーメンの棺のようにピッタリ入る形で隔壁が凹んでいます。
こういうのは設計が大変ですが、限りあるスペースを如何に有効に使うか腐心している様が垣間見えて好きです。
またまた余談ですが助手席のマットに切り欠きがあって、下の車体番号の打刻が見えるようになっています。
昔はエンジン房内側のトーボードやダクトに打刻してあったんですが、最近はこんなところやフロントシートの取付けメンバーなんかに移動されています。
まとめま~す
今回は建付けを中心に見てみましたが、エスロク君、かなり優秀です。
内外装共に分割、面差、ビシッと出てて、おかしなところが少ないです。
一方、敢えて面を面一にせず、出来ることと出来なことを分けて造形しているのも好感が持てます。
こういうのはデザイナー、設計、生産技術が三位一体にならないと出来ないことなので、ホンダの実力は高いですね。
最後までご覧下さいまして、ありがとう御座いました。
次回の記事でお会いしましょう!それでは、また!
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